社労士が日本版DBSを語る理由 ―― 制度施行を前に、事業者と現場の間で考えていること
公開日: 2026年5月3日
はじめに
社労士として、日本版DBSという制度に強い関心をもって取り組んでいます。
社会保険労務士法人アクセル代表で特定社会保険労務士の安田翔太と申します。
このたび、当センター(日本版DBS支援センター)のブログを開設するにあたり、第一弾として「なぜ社労士である私が日本版DBSというテーマに取り組むのか」という問題意識を、率直にお伝えします。
制度面の解説や実務上の対応については、今後の記事で順次掘り下げてまいります。今回はその前段として、私自身の立ち位置と、この制度に対する見方をご共有させてください。
1. 自己紹介 ―― 社労士としてのバックグラウンド
社会保険労務士として、これまで中小企業を中心に、就業規則の整備、労務トラブルの予防と対応といった領域に携わってきました。
そうした現場で繰り返し向き合ってきたのが「採用」と「解雇」という二つの局面です。誰を雇い、どのような形で雇用関係を続け、場合によってはどう終了させるか。この一連の流れの設計は、社労士の中核的な仕事だと考えています。
また、大学卒業直後は介護保険事業のNPO法人で社会福祉系の受託事業に勤務していました。そのとき、塾やスクールだけでなく、子どもの預かり機関や居場所づくりに取り組む事業者は地元に根差した小規模な事業所が多かったと記憶しています。しかし、そういった小規模の事業所は、必ずしも雇用契約書や就業規則などが整備されていないケースも多くあります。この経験は、後述する日本版DBSの「小規模事業者の負担」という論点を考えるうえで、私の出発点になっています。
2. なぜ日本版DBSを取り上げるのか
私が日本版DBSを「社労士の専門領域」として取り上げる理由は、「採用・解雇・就業規則」という社労士の中核領域と完全に重なるためです。
性犯罪歴確認という非常に大きな部分にスポットがあたりがちですが、実際にはその性犯罪歴が見つかったときに、どういった対応をするか、またそのためにどんな準備をしていかなければいけないか、という点に社労士が果たすべき役割があると考えています。
3. 日本版DBSの実効性を担保するために
日本版DBSは、子どもを性被害から守るという目的に異論を唱える人はほとんどいないはずです。しかし、現行制度が上手く機能しなければ、その実効性が損なわれてしまう恐れもあります。
それは、民間教育事業者にとって、認定取得が任意であるという点です。
認定を取得した事業者に対しては、性犯罪歴のある人はまず応募してこないでしょう。一方、認定を取得しない事業者には、何の確認義務も課されませんので、認定を受けた事業所からそういった人材が流れてくる可能性も考えられます。
仮に任意事業所の認定取得が一部の事業者に留まれば、確認の網から外れた場に性犯罪歴のある人材が流れていくだけとなってしまう可能性がありますので、より多くの事業者で導入されてはじめて意味のある制度だと言えます。
とはいえ、小規模事業者の負担は大きいため専門家の支援が欠かせないと考えています。
4. 解雇の前に、事前準備が必要です
「性犯罪歴が見つかったら、その従業員は辞めさせればいいんですよね?」
ご存じの方も多いかと思いますが、そう単純ではありません。
日本版DBSによって特定性犯罪歴が判明したとしても、その情報をもって直ちに解雇できるわけではありません。日本の労働法制では、解雇には制限があり、犯罪歴の存在だけで自動的にこの要件が満たされるわけではありません。
実際の対応では、配置転換による業務の見直し、退職勧奨などの選択肢を検討することになります。ただ、配置転換や業務の見直しがどこまで必要か、実際に可能かは事業所によって違うため、慎重に考えていく必要があります。
そして、実際に該当者が見つかってからではなく、会社の事業内容や規模、そもそも雇用契約書の内容から、事前にどういった対応が可能かを想定しておく必要があります。
つまり、日本版DBSへの対応は「犯罪歴が見つかった瞬間に動き出す」ものではなく、事前に想定したうえで、対応の根拠となる労働条件通知書や就業規則を整えておく必要があります。
5. 弊センターがご支援できること
こうした事前準備を、弊センターでは次のような形でご支援しています。
- 求人や内定通知書の整備 ―― 採用時に犯罪歴確認の対象となる旨を、応募者に明示します
- 就業規則の改定 ―― 懲戒や服務規程を整備します
- 労働条件通知書の改定 ―― 業務変更の範囲など就業規則で対応できない部分を規定します
- 判明時の対応フローの設計 ―― 事業所の規模や業態に応じた現実的な対応を、事前に整理します
いずれも、認定取得を目指すか否かにかかわらず、子どもと接する事業者様にとって整備しておくべき体制です。
また、これらは認定申請と同時並行的に行う必要がありますし、最終的に裁判となる可能性もありますので、行政書士や弁護士とも連携いたします。
おわりに
日本版DBSは、これから社会全体で運用ノウハウを蓄積していく制度です。完璧な答えはまだ誰も持っていません。
性犯罪歴の照会だけがクローズアップされがちですが、犯罪歴の確認は再犯防止には役立つ一方で、初犯を含めた性被害の防止には十分ではありません。子どもを守るためには、早期発見の仕組みや組織体制の整備までを含めた全体的な取り組みが必要です。
だからこそ、事業者様と専門家が一緒に考え、現場で機能する仕組みをつくっていく必要があります。弊センターは、その伴走者でありたいと考えています。
今後の記事では、本記事で触れた論点を一つずつ掘り下げてまいりますので、ぜひ続けてお読みいただければ幸いです。
社会保険労務士法人アクセル
代表 安田翔太
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